依頼

2004年4月10日
吉田は、放送業界に属する人間「だった」。

今は違う。

ラジオ放送関連の制作プロダクションに所属していた頃に私は彼と出会った。

当時の私は、ネット関連の仕事であれば業種を拘らずに、あらゆる人と会った。

そのときに吉田に会った。

軽薄そうな雰囲気であったが、地味な性格が災いし、印象の薄い存在としか見えなかった。

私もドロップアウトし、彼もフリーになり、しばらくはメールで挨拶などやり取りもしたが、次第に疎遠になっていった。

噂では、パチンコや風俗の業界の広告関連やネット関連の仕事をするようになっていったと聞いていた。

その「彼」が私に会いたいと連絡してきたのだ。


春とはいえ、日差しは初夏のものと同じようにジリジリとアスファルトを照らしていた。

私の窓からは表通りの歩道が見えた。

吉田はそこを汗を拭きながら、現れた。

吉田は歩道をせかせかと歩いていたが、ふと立ち止まり、きょろきょろと周りを見回し、私のオフィスのある雑居ビルに入っていった。



「久しぶりですね、吉田さん」

「いや、ほんとだね」

「2年ぶりじゃないですか?」

「そうかもしれない。元気してたかい?」

私たちは、あたり差しさわりのない会話を続けていた。
私には吉田が、世間話しや、思い出話をする為に来たとは思えなかった。
ましてや、警戒しながらここに入ってくる吉田の姿に、
ただならぬ「不安」を感じていた。

「・・・ところで吉田さん、今日は何か話しがあったのでは?」

「うん、まあ、顔も見たくて来たんだけどね・・」

吉田の歯切れは悪かった。
正直、もう下らない世間話しをするネタも尽きてきた。

「そうですか、いや、吉田さんがここに入るのに、やけに周りをキョロキョロとしてるので、何かあったのかな?と」


吉田はギョッとしたように目を見開いたが、すぐに元に戻った。
普段は細い柔和なまなじりだが、カッと見開き、元の表情に戻る吉田に不気味なものを感じた。

「何かお困りのことがあるなら、私で良ければ相談に乗りますが?」

「・・・・実はな、最近何かおかしいんだ。・・尾行されているような気がするんだ。・・」

「誰に?」

「わからん・・・。」

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