探偵日記 「濁流」

2003年7月12日
私は、本当の私の気持ちを整理した。

私は彼らが離婚することを、密かに望んでいたのだろうか。
私は彼女に、淡い感情を持っていたのか。
私はどうしたいのか。

私は彼女と接触していく上で、何かが大きくなっていたのだ。
彼女の淫猥な姿をネットで見ながら、私もその参加者と同じように彼女を「犯して」いたのだ。興奮していたことは事実だった。

私は他の者より、彼女の姿を知っている。
だから、彼女が余計に淫靡に見えた。
私は、彼女を「欲している」ことを、きれい事を並べて、偽ってきた。

私は自分の欲望を認識し、それを隠して彼女に会った。彼女に知られたくなかった。
そして、彼女が欲しかった。

私は、ネットにアクセスし、彼女が現れることを待った。
ここ数日、彼女はアクセスしてなかったようだ。
今日もダメかと諦めていたら、彼女からCHATの申し入れがあった。

私は彼女のCHATの個室部屋に入った。
そこには、彼女と、見知らぬハンドル名の人物がいた。
私は、その人物は誰かと聞いた。
しかし、彼は友人と名乗っただけだった。
私は彼女の浮気相手かと思い、大きく失望した。
そして、その人物は「仲裁者である」と言った。
私は彼女と揉めていないことを告げ、何の為に呼び出されたかを尋ねた。
彼女は真実を話したいと言った。
私は了解した。
彼女は今までの夫婦の状態を話し、そしてネットでの彼女の様子を簡単に説明していた。そして私にその内容で問題無いかと尋ねた。
そして私はそれが真実であることを保証した。
仲裁者と名乗る者が、なぜゆきおに話さなかったかと私に尋ねた。
私は、こんなことは浮気ではなく、単なる遊びだと話し、夫婦の間に余計な亀裂を作りたくないことを話した。また、彼女の幸せを願っていたことは事実だった。

仲裁者は一旦理解したと述べた。
私は仲裁者と名乗る者に尋問を受けているような気分になり、不愉快な感情がふつふつと湧いてきた。
しかし、その者から突然のカウンターのような質問に、

「あなたは彼女に好意があるのではないか?」

私は背筋に冷水をかけられたような気がした。
彼女に私の感情が知られていたような気になり、羞恥心で体が燃えるような思いがした。

そして、仲裁者に対して激しい怒りが湧き上がり、

「あなたは誰ですか?なぜそんな質問をするのですか?何の権限があって、私に尋問をするのですか?」

とぶつけた。

「俺はゆきおだ」

仲裁者の言葉は、私に新たな今までより大きい怒りを湧き上がらせた。

「お前はおかしい!気違いじゃないか!こんなことをして、何が楽しい!」

「今どこにいる!直接会ってぶん殴ってやる!」

私はあらゆる悪態をついてやったが、ゆきおは冷静に彼の自宅に来いと言った。

私は車を走らせながら、じょじょに冷静に考え始めた。今回の行為はゆきおだけでなく、彼女も加担しないと成立しない。
ということは彼女も理解した上での行為と認識し、どういう話が成されるかを考えてみたが、まったく理解できなかった。
混乱した思考のまま、彼らの家に着いた。

インターホンを鳴らすと彼女が玄関まで出て、私を招き入れた。
彼女は青白い表情で、ただ一言「すいません」とつぶやいた。
彼女の哀れな姿を見て、私はゆきおに対して新たな怒りを感じた。

ゆきおはリビングに居た。
無表情な顔からは、彼の感情を何も知りえなかった。

私は黙ってソファーに腰を下ろした。
そして、ゆきおから話し出すことを待った。

「最初、お前じゃないかと疑っていたが、お前に話を持っていったときは、その疑いは晴れていたのさ」

私は突然の内容に、言葉が出なかった。「なぜ?」「なら、なぜ?」という言葉は私の中で言葉より大きくなり、怒りとなり、ゆきおの顔に私のコブシが飛んだ。
普段からジムに通い、体を鍛えている私の鉄拳で、ゆきおは椅子ごと倒れた。
彼女は悲鳴を上げ、私の体を押さえた。
私もいつまでも起き上がらないゆきおを見て、少し不安になった。
しかし、ゆきおはのろのろと立ち上がり、へらへらとした薄笑いを浮かべていた。
口の端を切り、鼻血を流しながら、緩んだ口元で薄笑いを浮かべてはいたが、目は笑っていなかった。
私の怒りはその目を見て、急速に冷えていった。

彼女がティッシュペーパーでゆきおの顔を拭こうとしたが、それを乱暴に振り払い、自分で顔を拭き出した。
私は黙ってその様子を見ていた。

「何がしたい、お前は?」

私はゆきおに尋ねた。

『なぜ』という疑問に対して、答えが返ってくる相手には感じられなかった。正気の沙汰とは思えない行動だった。

「俺はな、妻が何をしていたかを、全て知ってるんだよ。興信所に頼んで、ここに隠しカメラも仕込んだんだよ。どんな通信してたかも最初から知ってたんだよ。」

「お前は気違いだ!覗き趣味の胸糞の悪いクズヤローだよ!」

「覗きはお前も一緒だよ、ゆかの行動を覗きながら興奮してたんじゃないか」

私はまたもや、暴力の衝動を覚えたが、彼がペースに乗ることに嫌悪を感じ、押さえ込んだ。

「で、何のようだ。何が言いたい。」

「この女はな、」

「止めて!!」

「この汚らしい女はな!ネットしながら汚らしいことをしてたんだよ!」

「やめてよ!言わないって約束したじゃない!だから協力したのよ!」

「ははは!スベタのくせに恥ずかしいのか!」

私は今度は暴力の衝動を抑えきれず、思わずまたゆきおの胸倉を掴んだ、

「こいつはイクときにお前の名前を叫ぶんだよ!」

「いやーーーー!やめて!」

「はははは!ひゃっははは!」

私は言葉を失い、怒りも凍りついた。
そして、ゆきおは、

「お前もだよ!こいつのネットオナニーショーで何回抜いたんだ!お前がパソコンの前で抜いてる写真もあるぜ!」

私は、はっと彼女を見つめた。
私は彼女が欲しかった。
そして、自慰にふけった。

それが彼女に知られてしまった。
私は眩暈のような衝動に立ち尽くした。
ゆきおは気違いのように笑い転げ、

「・・ひゃっひゃひゃ、俺はいったい何なんだ!はーっはっは・・・」

私は互いに自分達の「汚物のような感情」をぶつけ合いながら、奈落の底に落ちていった。



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