探偵日記 「回想」

2003年7月11日
随分と時間が空いてしまった。
このメモは元々、昨年の私の行動の回想である。

私は誰かに話して、楽になりたいだけなのである。
そう、これは私の自慰行為なのである。だから醜く、汚らしいと誰かに罵倒されたいのである。


私は彼女に、彼女の名を告げた。
彼女はアクセスを切った。

私は畳み掛けるように、彼女に電話をかけた。
呼び出し音を10回鳴らしても、受話器は上がらなかった。
私は、異様な興奮で、血液が体中をめぐる感覚を感じた。
15回鳴らした後、彼女は受話器に出た。
受話はされたが、何も声は発せられなかった。
私は自分の名を告げた。
彼女の安堵のため息が聞こえた。
しかし、私は彼女をまた、恐怖のどん底に陥れた。
「私が『あけち』です」

彼女の息を呑む音が聞こえた。
私は、会って話がしたい、そして彼には内緒で会いたいと伝えた。

彼女は明日なら良いと応えた。
翌日、私は喫茶店で彼女に会った。
何から話すか、私は決めて来たのだが、彼女の不安げな青い顔を見た時に、自分の行っている行為が何の為にしていることなのか、わからなくなった。
『ゆきおのためなのか?彼女のためなのか?』
私たちは店内で沈黙のまま、過ごした。

口火を切ったのは彼女だった。

「なぜ、あなたが私をご存知だったのですか」
私は彼女の顔を見つめ、ゆきおに頼まれて調査していることを告げた。

「では、主人は私のことを知っているのでしょうか」
私はまだ告げていないことを伝えた。

「なぜですか?」
彼女は不安げな表情で見つめた。いや、何か喜びと不安と羞恥が入り混じったような、一つの感情の表情ではなかったような気がした。

「ゆきおは私とあなたとの間で、関係があったと疑い、そして私に調査を依頼したのです。
そして、私が何もないと報告したことで、疑惑を深めたのです。」
彼女は私の次の言葉を待った。
私は言うべきか、迷っているゆきおの無精子症のことを切り出すことを決心した。

「ゆきおには子供を作る能力はありません」

彼女に驚愕の表情が、走った。
言葉を続けられず、彼女の動揺が収まるまで、私たちには沈黙が流れた。

「相手は誰だったのですか」
彼女は俯き、項垂れ、そして、何も話さなかった。

「私がなぜ、ゆきおに疑われたのですか?」
私は、私の疑問をぶつけた。
やはり、彼女は沈黙したままだった。
そして、
「ご迷惑をおかけしました」
と一言、つぶやいた。

私は場所を変えて話したほうが良いと思い、出ることを話した彼女は黙って頷いた。


私たちは近くの公園まで、黙って歩いた。


「お相手が誰か、ということは私には関係のない話です。言いたくなければ、言わなくても結構です。しかし、なぜ私に疑惑を向けられたのかは、お話いただけませんか?」

私はベンチに座り、彼女にも座るように勧めた。
しばらく沈黙があった。
「私はあなたからお聞きした話をゆきおに話すつもりはありません。」


「主人から、離婚の話はありました。何も言わず、用紙を渡されたとき、『ああ、やっぱり来た』と思って、ショックではありませんでした」

私はベンチのへりを見つめ、彼女の言葉を待った。そして彼女の言葉を待った。

「流産したのは、あの人の子供です。無精子症というのも嘘です。あなたの様子を見たかったのでしょう。」

私は頭に一撃を喰らったような、驚きを覚えた。
何が真実で何が嘘なのか、わからなくなった。

「あなたは、なぜ主人に話をされなかったのですか」

私に彼女から疑問がぶつけられた。


彼女は何かを待っている表情で私を見つめた。
私は自分がなぜ、彼女の行為をゆきおに告げず、彼女の生活を守ろうとしたのか、本当はわかっている。

私は彼女に好意を抱いていた。

しかし、それは彼も彼女も知らないことだ。
私も今回の件が無ければ、はっきりと認識できなかったことだ。

私は彼女を見つめた。
そして、
「あなた達のような幸せそうに見えたご夫婦を、守りたかったからです。私のような落伍者からは、あなたの幸せな姿は眩しいのです。」

彼女の目が微かに潤んだ。
彼女にどういう感情が流れたかは、私にはわからない。
私の密かな感情は彼女に伝わったのだろうか、私は伝わってほしい感情と、知られたくない感情で、大きく揺れた。

私は、結局何も知りえなく、また疑問を増やして別れた。

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