散らかった事務所のソファーに寝転びながら、私は昨夜のゆきおとの会話を思い返していた。
事実を整理し、時系列の順に考えてみたが、私が彼ら夫婦の不仲の原因になる可能性が全く無かった。
なぜ私に浮気の嫌疑がかかったのか、また、その嫌疑は晴れたのか、昨夜のゆきおの態度ではわからなかった。
ただ一つはっきりしていることは、「私の知らない」私のことが夫婦の中にあることが考えられた。
ゆきおを問い質しても、何も話さないことは予測できた。
私はゆりこから聞き出すしかないと思ったが、何から話を切り出すか、迷っていた。
しかし、考えても答えは出てこない。

私はネットのゆりこのハンドル「B」に、接触を試みることを決めた。
ゆりこはいつもCHAT部屋で、大人しく会話をしていた。先ほどまで「A」のハンドルでいかがわしいCHATをしていた女性とは思えない。
私は彼女と二人きりになる機会を待った。

他のメンバーがCHAT部屋から落ちた。
私は部屋を非公開設定にし、誰も他の人がはいれないように閉めた。
そして、私は予め決めていた行動を起こした。
私は手に汗をかいてきた。緊張しているのかもしれない。

「・・・・あなたは『A』さんではないですか」

ゆりこからの返事はなかった。とぼける余裕もないくらい驚いているのかもしれない。得体のしれない人物「あけち」に対して恐怖を感じているのかもしれない。私の鼓動も早鐘のように鳴っている。私は畳み掛けるように、

「私はあなたが誰かも知っています」

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